所縁の地

三津浜 城戸屋 道後駅 道後温泉 ターナー島 宝厳寺 松山中学 古町駅 城北練兵場



三津浜

東京の物理学校を卒業した坊っちゃんは、間もなく「四国辺のある中学校」に見立てた松山中学の先生として赴任する。 「――ぷうと云って汽船がとまると、艀が岸を離れて、漕ぎ寄せて来た。船頭は真っ赤な赤ふんどしをしめている。野蛮なところだ。――事務員に聞いてみると此所へ降りるのだそうだ。見ると大森位な漁村だ――」 坊っちゃんが松山に赴任した明治28年には、汽船はまだ高浜には寄港していなかったから、この「大森位の漁村」に見えたところは三津浜である。 三津浜からは広島や柳井行きの汽船が発着していたが、桟橋がない時代で汽船は沖合に停泊し、乗降客や貨物は岸から艀で運んでいた。 艀から陸にいの一番に飛び降りた江戸っ子坊っちゃんは、岸に立っている子供に「中学校はどこだ」と聞くが、「知らんがの」と言う。 そこで筒っぽうを着た男に港屋という宿屋に連れて行かれるが、目指す中学校はここから汽車で二里ばかり行かねばならないと教えられ、宿へは上がらず、停車場まで歩き、 三銭の切符を買ってマッチ箱のような汽車に乗った。 当時、三津浜港は瀬戸内海交通の要津であり、三津浜・松山間には軽便鉄道が運行されていた。現在は港湾整備が進行し、大松山港の中心として貿易・商工業港、 また、中国方面へのフェリー基地として大きく変貌している。

明治期の三津浜港

松山港のなかでは最も古くから開かれた地区であり、夏目漱石が松山に赴任する際に降り立った港。

現在の三津浜港

柳井港へのカーフェリーのほか、中島方面へのカーフェリーの発着する港となっている。

伊予鉄道高浜線三津駅

平成21年2月に新築される前の姿

城戸屋

三津浜からは、マッチ箱のような汽車ですぐ松山駅(現在の伊予鉄道松山市駅)に着く。山城屋という宿屋に人力車で案内されて落ち着いた。 小説の山城屋とは、実は城戸屋という旅館で市内三番町にあり、"坊っちゃんの間"を残していた。 「何だか二階の格子段の下の暗い部屋へ案内した」とか、「下女がどこから御出になりましたと聞くから、東京から来たと答へた」とか。 そして、東京に残した老女が笹飴を食っている夢で目が覚めたという。 なりと持ち物の貧しさを見くびり、粗末な取り扱いの田舎者をびっくりさせてやろうと、五円の茶代という大金奮発のくだりが面白い。 「五円札を一枚出して、あとでこれを帳場へもって行けと云ったら、下女は変な顔をしていた」とか、学校から山城屋へ帰ると、 「おかみさんが、おれの顔を見ると急に飛び出して来てお帰り……板の間へ頭をつけた。……御座敷があきましたからと下女が二階へ案内した。十五畳の表二階……」とか。 城戸屋は松山市内の大きな旅館であった。現在地には「ビストロきどや」という古びた看板がかかった民家で、かつての面影を残していたが、平成24年に解体された。

坊っちゃんの間

城戸屋は昭和28年に総桧造りで再建、漱石が泊まった「坊っちゃんの間」も忠実に復元されていた。

坊っちゃん列車

伊予鉄本社前に展示される坊っちゃん列車1号車

城戸屋跡

城戸屋は昭和53年に旅館を廃業。その後も建物は残っていたが、平成24年に取り壊され、今はない。

道後駅

「住田という所は温泉のある町で城下から汽車だと十分ばかり、歩いて三十分ばかりで行かれるという」とある。これが道後温泉のこと。 道後から一番町を経由して古町には、道後鉄道の汽車が走り、温泉入浴客の便をはかっていた。明治28年の開通だから、漱石が松山中学に在任中のときである。 「ピューと汽笛がなって、車がつく。待ち合わせた連中はぞろぞろ吾勝に乗り込む。赤シャツは……上等へ飛びこんだ」と。汽車賃は道後鉄道も伊予鉄道も等級があった。 入浴客は道後駅で下車、温泉に向かう。現在の道後温泉駅は伊予鉄道市内電車の駅だが、三代目。明治期の面影を偲ばせるレトロな駅舎である。 また平成13年から、伊予鉄道によって当時の軽便機関車を復元した「坊っちゃん列車」が市内を走り人気を博している。

明治期の道後駅

道後鉄道は明治28年に開業、明治33年、南予鉄道とともに現在も続く伊予鉄道に合併された。

現在の道後温泉駅

伊予鉄道の路面電車の駅で、道後温泉の最寄駅。坊っちゃん列車の終着駅のため、引き上げ線で方向転換が見られる。

松山市内を走る坊っちゃん列車

昔、石炭で蒸気の力で動いていましたが、現在はディーゼルエンジンを採用しています。

道後温泉

漱石は道後温泉が気に入り、よく行ったようだ。「坊っちゃん」作中、この温泉に関する記述は、とても興味をそそる。 一節に「毎日住田の温泉へ行くことに極めている。……温泉だけは立派なものだ。……西洋手拭いの大きな奴をぶらさげて行く。 ……温泉は三階の新築で上等な浴をかして流しをつけて八銭ですむ」とか、湯つぼで泳いだとも、面白く描いている。 道後温泉は日本最古、歴史上有名。明治27年に建った本館の建物は実によい。 三階個室には漱石と子規が遊んだところもあるが、今も"坊っちゃんの間"として完全に当時のままに見られる。朝夕の時刻を告げる「時太鼓」が情緒深い。 道後温泉本館内には宿泊施設はありませんが、1階は常連客向きの大衆浴場、2階は大広間でゆっくりとくつろげて、浴衣とお茶、 お菓子のサ-ビスがあり、正岡子規や夏目漱石が何度も訪れた「坊ちゃんの間」等も2階以上の利用客には無料で見学することが出来ます。 この「道後温泉」利用料金は、「神の湯」階下280円、2階席620円、「霊の湯」2階席980円、3階個室1,240円になっています。

明治期の道後温泉

神の湯本館は、道後湯之町初代町長の伊佐庭如矢が、100年後の繁栄を見据え、明治27年に改築した木造3階建てです。

椿の湯

椿の湯は、昭和28年(1953)、「第8回国体」が四国各県で開催されたときに建設されました。

飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)

聖徳太子の来浴や斉明天皇の行幸などの物語や伝説が残る飛鳥時代の建築様式を取り入れた湯屋です。

ターナー島

「君釣りに行きませんかと赤シャツがおれに聞いた。……吉川君と二人ぎりじゃ淋しいから来給えとしきりに勧める。 ……吉川君というのは……野だいこの事」と、坊っちゃんが釣りに誘われて行くくだりの対話がとても興味深い。釣り船が沖に出る。「向う側を見ると青島が浮かんでいる。これは人の住まない島だそうだ。 よく見ると石と松ばかりだ」とか、「あの松を見給え、幹が真直で上が傘の様に開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だいこに言うと、 野だいこは「全くそうですね」と、ばつを合わす。野だいこが赤シャツにマドンナを置いたら絵になるというが、実はマドンナは赤シャツなじみの芸者のあだ名。 船が高浜から三津浜の沖合に出たところ、ターナー島などといった四十島には松があって絶景というが、そのとおりであった。漱石に中学校で教わり、 崇拝していた桜井忠温が、島を背に芸者風のマドンナをさらりと描いたことがある。今ではその松も枯れてしまっているが。

宝厳寺

「北に登って町のはずれへ出ると、左に大きな門があって、門の突き当が御寺で、左右が妓楼である。山門のなかに遊郭があるなんて前代未聞」とある。 ここで御寺というのは、宝厳寺のことで、時宗開祖一遍上人の生誕地として有名。その昔、十二坊もある荘厳な寺院だったが、いつのころから宿坊が遊郭になったものか。 寺は、もと遊郭松ヶ枝町の奥にある。 「色里や十歩はなれて秋の風」子規の句碑は寺の庭に立つ。

松山中学

「坊っちゃん」は、漱石が中学の同僚をモデルにしたともいわれるが、もちろんノンフィクションではなく、創作。モデルというと、真偽のほどはいろいろ。 人物の性格などに類型的な傾向もあるが、名にしろ大傑作。こんなに広く長く読まれている小説は珍しい。 学校騒動のたぐい、この当時どこにでもよくあったという。明治28?29年の一年間、英語の授業の力を注ぐ。 熊本の五高に転出、別れるに及んでの句に「別るるや一鳥鳴いて雲に入る」があり、句碑も建つ。東京高等師範から地方の中学に都落ち、失恋からか、 友人子規との関係もあるとか、いろいろいわれている。 同僚職員のあだ名付け、バッタ事件、道後の角屋、枡屋事件などの設定、もちろんフィクション。松中、松山東高の同窓会記念誌には漱石についての思い出が必ず載っていた。 漱石と松山中学、「坊っちゃん」と松中など、全国的に知られて興味も持たれるのである。

古町駅

「それから可成ゆるりと、出たり這入ったりして、漸く日暮れになったから汽車へ乗って古町の停車場まで来て降りた」という。 坊っちゃんは道後鉄道の汽車で道後駅から古町駅に着いて降りたことになる。古町は松山城の西北の地域に、築城時の城主加藤嘉明がつくらせた町で、呼称のとおり古い。 本町ともいわれて明治期には賑やかであった。伊予鉄道の汽車の駅もあり、こちらは後に電車の駅となる。

城北練兵場

「祝勝会で学校は休みだ。練兵場で式があるというので、狸は生徒を引率して参加しなくてはならない。 おれも職員の一人として一所にくっついていくんだ」にはじまるくだりも面白い。もちろん虚構であるが、日清戦争の勝利の祝勝会。 犬猿の仲の師範校と中学校のけんかになり、山嵐の堀田と坊っちゃんが止めようとして入り、巻き込まれる。翌日の朝の新聞は両人が先導したかのごとく責める。 この城北練兵場は二十二連隊の演習場であったが、現在は愛媛大学など学園が並び立つ文京地区。「陸軍省所轄地」の碑が残るばかり。

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